星野リゾートの教科書本に出てきたので中古で購入して読了。1時間程度で読み終わるが味わい深い本。
顧客を満足させるのでは駄目だ。熱狂的なファンにしろという目的で以下の三つの秘訣が物語形式で紹介される。
- 自分が何を望むのか決定せよ
- 顧客の望むことを発見せよ
- 一つ余分に実行せよ
自分で提供したいサービスのビジョン、イメージと、応えたい顧客の期待のスコープを決める。次に実際に顧客に聞いてみる。このとき顧客は本当に思っていることを言わない事に注意する。そして実行するときは1%多くのことを提供する。継続して提供し、その上で改善していく。1と2はサービスの方向性、目標を定めるためのプロセスであり、3は現場と顧客を幸せにして実行の一貫性を保つための秘訣である。
例えばうちの場合だと下記のようになるだろうか。
1.サービスのビジョン
コミュニティファクトリーにとって第一の顧客は、農村に住む最貧困層の女性達だ。彼女たちが経済的にも精神的にも自立するためのサービスを提供するのがうちの事業である。そのためには彼女たちが安心して、誇りを持って働き続けられるような高い給料と、良い職場環境があることが基本である。
また副収入の獲得と、お金の使い方に関するスキルも大切な用件である。様々な事を学ぶための素地として識字教育があり、その上で、本人の状況や希望にあった副収入獲得の手段(鶏の飼育 〜 洋裁の副収入など)が覚えられるコースが用意されている。貯蓄やちょっとした投資なども大切なスキル・習慣で、かものはしからサポートを受けられる。
全ての女性達が笑顔で楽しく働き自分の夢を目指せる、そんな工場である。
「ファクトリーでの毎日の勤務は笑いに包まれている。自分の成長をチームリーダーやスタッフ、マネジャーが気にかけてくれている。ちょっとサボったり体調が悪い日は、チームリーダーが心配してくれるし、ファクトリーに行けない日が続くとスタッフが心配して家まで来てくれる。5年も真面目に働いている先輩は、素早く製品を作るだけじゃなくて、毎日のように工房に訪れるお客さんと少しコミュニケーションをとっている。
お給料は、農業が一番忙しい時の出稼ぎのお金よりは少し安い。毎月安定して貰えること、だんだんと上がっていくこと、家族の面倒も見ながら暮らせること、農村なので費用があまりかからず貯金が出来ることなんかが魅力。副収入も含めると、自分の家族の中で一番安定して収入を提供しており、家族の中でも信頼され、徐々に意見を言えるようになってきた。
ファクトリーに通い始めてから一番変わったのは、自信がついたこと。ちょっとずつ作れる製品が増えていったこと。一日30個しか作れなかったコースターが今は50個作れること。クメール語の読み書きが出来るようになったこと。親と今後の事をいろいろ話し合えるようになったこと。スタッフに褒められたこと。厳しい納期の仕事をやりきったこと。みんなでパーティーをやったり、遠足に行ったこと。自分が頑張って作った商品を買ってくれる人がいて、喜んでくれること。その一つ一つが今の自分を作っていると感じる。
密かな楽しみは、ファクトリーの前にある花壇の世話を任せられていること。見たことも無いような花の種をスタッフが持ってきてくれるのでそれを育てるのが楽しいし、ここを通る人がその花に気づいてくれるのが嬉しい。」
といった具合に。
2.顧客の望むことを発見せよ
まさにこの本の通りで彼女たちは自分の思っていることを言わない。ただ黙って辞めてしまう。家庭訪問して親身になって話を聞こうとしても難しい。その場がうまく収まってもその後突然辞めてしまうこともある。家庭の問題をどう解決するかは非常に難しい問題だからだ。よくよく聞いてみると彼女たちがいつも口にするのは「給与を上げて欲しい」「農業のための休みが欲しい」「暗くなる前に帰りたい」「将来外で使いやすいスキルが欲しい」ということ。正直まだ彼女たちの本当の声を聞けていないと思う。「漠然とした将来への不安」「問題が多い家族や人間関係への対処」などがその背後に見えるが。。。
3.一つ余分に実行せよ
まず彼女たちと約束したことを、やりきること。そのクオリティを上げていくことが大切だと思う。最近常々スタッフと話していることだが、まず本丸の「きちんとスキルが身についてランクが上がって給与があがる」こと、「目標が管理されて、生産性を上げていけること」。それに加えて+1で「新しい評価システム」だったり「サラリーのベースアップ」だったり、「コーチングの仕組み」「役に立って面白いライフスキルの提供」があるんだろう。
こうして書き下してみると、1と2のプロセスがまだうまく回っていないことに気づく。1のイメージを何度もスタッフと話し合って伝えていくのが必要なのだろう。その部分はこの本からは省略されているが、メッセージは受け取った。「顧客サービスの向上をあきらめないでやる」ってことだろう。
最後にいくつか面白かった部分をメモ
- 「ほとんどの店が、ほかの999人の顧客を不快にし、1人の泥棒が別の手口を見つけてほくそ笑むようにしているわけだ。たった一つの盗難を防ごうとしてこんなに多くの顧客を不快にすれば、どれだけマイナスになるか誰も考えてもみないらしい。全くお客をないがしろにするものだ」
- → 少しの不正やルール違反を防ぐための、厳しいルール作りなどで反省するところあり。
- 工場の顧客は誰なのか。クライアント企業全体というのは十分ではない。例えばコンピュータのケースを納入する場合
- 仕入れ係、買い付け担当者
- 常にモデルチェンジをしようとしているエンジニアリング部門
- そのケースを使わなければならない製造部門
- 煮の積み卸しドックでケースを受け取る人
- 支払いを処理する経理部
- コンピュータ会社のオーナー
- 品質管理部
- 最終的にコンピュータを使う人たち
- → つまりうちも様々な顧客がいるんだった。第二の顧客として商品を買って頂いている皆さん、お土産物屋さん、、それ以外にも支援して頂いているサポーターの皆さん、助成金・寄付金を出してもらっている財団や企業などなど上げていけばキリが無い
- サービスを融通性をもって一貫して実行することが大切
- 融通性に必要なのは、ビジョンと現場の裁量
- 一貫性に必要なのは、少しずつ約束できる部分を増やしていくこと