瓜生原琢実という男がいた。
まず気になるのは名字だ。うりゅうはら、と読むらしい。なんと日本に20人ほどしかいない貴重な名字だそうだ。ありきたりな名字の僕からすると、うらやましい限りだ。自己紹介で会話が弾む。
その男は大学院の入学と同時に休学届を出し、世界一周の旅に出た。
そして、バンコクで睡眠薬強盗に出会ったのち、かものはしプロジェクトのカンボジアオフィスに6ヶ月ほどインターン生として働いたのであった。睡眠薬強盗については彼のブログ(ウリリン滞在記)に詳しい。
さて、彼が担当となった営業部門では、多くの売上がカンボジア国内での直営店からうまれていた。
いくら彼が日本から来た優秀な大学院生といっても、小売の仕事をしたことがあるわけではない。特に英語で仕事をするという環境で、最初はミーティング一つとっても苦労しているようだった。そしてなにより、カンボジアオフィスにとっても本格的に長期で学生のインターン生を受け入れるのはこれが初めてであったのだ。
そんな訳で、果たしてどのくらい彼が貢献できるのか、はたまた何も出来ないのか、全く見当がつかなかった。
しかし、その彼が6ヶ月間で営業部門を大きく成長させた。そして、彼自身も色々なことに悩みながら、大きく成長しているように僕には見えた。それは、僕にとっても今後も積極的に学生のインターン生を受け入れて行こうと確信するに十分なものだった。ある意味、他の学生にとってはレベルの高すぎる前例だったのかもしれない、とすら思う。
彼との出会いは、かなり前にさかのぼる。世界一周に出る前に、ETIC.の紹介を受けて面接することになった。
今でもはっきり覚えている。僕にとってはかなり衝撃的で、悔いの残る出会いだったからだ。
なんといっても、彼は面接の後、インターンとしてかものはしで働くことを辞退したのだ。
「一緒に働く仲間として本気であるように見えない」
というのがその理由だった。
これはガツンと来た。僕の面接のときの態度、姿勢に強烈にダメ出しをされたからだ。
少し言い訳をさせて貰えれば、僕は育児休暇で家に戻ってたこともあり、一部子どもの世話をしながらSkypeをしてしまったこと、そして話してすぐ「この子は合格だな」と思ってあまり突っ込んだ質問をしなかったことがあった。せっかく書いてきてもらった課題もさらっと済ませてしまったのは、申し訳なかったなと思っている。
なんていうのはやっぱりただの言い訳で、自分の姿勢に大きな問題があったわけだ。このままお別れするのもあまりにもったいないと思い、こちらからお願いして再度面接をしてもらった。事務所で行った二回目の面接を経て、何とか一緒に働けることになったときは、ほっと安心したのを覚えている。
紆余曲折を経て、彼がカンボジアに赴任してきたのは2012年7月のことだった。Molykaという営業マネジャーとともに小売店舗の強化にのり出した。
本当に色んなエピソードがあった。ここに書けないような事も。
- 販売員をやって日本人のお客さんに気に入られ、ビールをもらって帰ってきたこと
- 得意のデザイン能力をいかして、持ち帰りにつかうビニール袋やカードなど様々なデザインを手がけたこと
- 営業チームの成長のために、ひたすらにトレーニングや一緒に考えるということをやり続けたこと。特に丸一日かけて資料を一緒に作ったりしていたこと。
- ショップスタッフの研修と評価のために、星取り表を開発し、定着させてくれたこと
- 日本語ガイドのチャンレイをトレーニングし、ときに怒り、ぶつかり「たくみさん、こわいです」と言われていたこと
- インターン同士での勉強会、振り返り会、シェムリアップでのイベントなど積極的に行っていたこと
- 小さなプロジェクトも積極的に色々引き受けてこなしてくれたこと
- 後続のインターンのために積極的に制度を助言したり、資料をまとめたりしてくれたこと
- 30km離れたCFまで突然ランニングしていこうとしたこと(これは失敗したのだけど)
そのどれをとっても、成果を出すことに本当に真剣で、自分の成長に貪欲だった彼ならではだと思う。
ここであらためて、彼に伝えたいことがある。それは、何よりも感謝、そして少しばかりの助言だ。
君がこのコミュニティファクトリー事業を前に進めていくために誰よりも努力をして、歯痒い思いもしながら頑張っていたこと。人材育成のテクニックだとか、営業のロジックだとかそんなことよりも、まずその気持ちが間違いなく今の営業スタッフにも引き継がれています。目に見えて成果にこだわるようになったし、達成しなければ悔しがってしっかり振り返りを行うようになった。その分析だって、半年前に比べるとかなり良い。
なんと、先週のSales / paxは$14.4だぜ!感動的。
その君が切り開いた道が、多くの女性達を今後も雇っていくための原動力となり、多くの学生をコミュニティファクトリー事業にインターンとして受け入れる道となりました。本当にありがとう。
あえて助言をするとすれば、うーん。焦らずにじっくり物事を進めれば良いと思うよ。君が世界のエネルギー問題に一石を投じる日が来るのを確信しています。 あえて言えば、相づち力かな(笑)
例えエネルギーじゃなかったとしても 、自分の信じた道をじっくり進みなさい。
あ、うちの娘の名前の由来になった言葉を贈る。
「静かに行く者は健やかに行く。健やかに行く者は遙か遠くまで行く」
まだ世界一周中だと思うので、気をつけて学びのある旅になりますように。
岩山を登るうりくん